宮古島徳洲会病院

宮古島徳洲会病院(沖縄県)は昨年4月の斉藤憲人院長の就任後、「台風対応マニュアル」の一部内容を改定した。同マニュアルは台風時の災害・事故の未然防止、対応策および復旧に関して必要な事項を定めたもので、昨年は4回ほど運用した。近年、離島に限らず本州でも台風被害が増えるなか、斉藤院長は「台風による災害は前もって予測できるので、台風に特化した対応策を見直すべきだと思います」と強調する。

同院では7年前の台風の際に職員が大けがをする事故が発生、これを機に職員の安全を優先したマニュアルを作成した。

台風発生から接近までの対応として、台風情報の収集と伝達、対応の協議、設備機器・建物の点検といった項目ごとに、どの部署がどのような作業を行うか明記。台風発生から接近までは数日の猶予があるため、この間に病院の体制を整備し、患者さんへの事前連絡をすませる。同院の関連施設である徳洲会伊良部島診療所も同様だ。

台風時の対応の起点となるのが「暴風警報の発令」。これは暴風(沖縄県内では風速が秒速25mを超える場合)により、重大な災害が発生する恐れがあると予想した時の注意喚起だ。マニュアルでは、「原則、午前は8時の時点、午後は12時の時点で暴風警報が発令されている場合、暴風時の診療体制に移行する」と記されている。

暴風時の診療体制とは①一般外来は休診とし、救急体制に移行、②健診センター、外来リハビリ、外来化学療法、通所・訪問系は休診、③外来予定検査は原則として延期、④予定手術は原則として延期―― などを言う。

勤務体制は暴風警報の発令前に部署ごとに調整しておく。その際、①各部署で最低限必要な人数とし、不必要な出勤は避ける、②妊娠している職員は自宅待機とする、③遠方より出勤している女子職員、幼児・小学生のいる女子職員は自宅待機できるよう考慮する――などルールを設けた。勤務者は暴風警報が発令される前に、余裕をもって出勤、待機する。

同マニュアルにより、職員は病院に連絡することなく、診療体制の切り替えを判断できる。このため情報の錯そうによる混乱がなく、連絡の不手際による対応の遅れなども発生しない。斉藤院長は「地震と違い、事前に発生が予測できる台風ならではだと思います。地震の場合、災害対応に切り替えるための“宣言”が必要になりますが、台風では、暴風警報の発令というわかりやすい指標があります」と説明する。

また、マニュアルには記していないが、台風時にはレスパイト入院(患者さんの一時的な受け入れ)にも対応する。原則として、在宅酸素療法を行う患者さん、透析が必要だが自力での通院が困難な患者さんなどが対象。台風が通過するまで2~3泊の入院をして、その間は外出することなく療養に専念してもらう。

台風通過後(警報解除後)の対応として、人的被害の調査では、各部署が職員の状況を確認後に総務課に報告。人的被害が生じた場合、事務長から院長と看護部長に報告し、対応を協議する。施設被害状況の調査でも、各部署から総務課に報告後、速やかに後片付けを行い、必要に応じて応急修理や危険箇所への立ち入り禁止といった安全対策を講じる。被害状況は写真などにより記録する。

勤務体制は、正午までに暴風警報が解除された場合、午後から通常診療体制とする。診療開始時刻は、原則として解除後2時間を目安とし、院内で協議し決定する。一方、正午以降に暴風警報が解除された場合は、午後も「暴風時の診療体制」のままとする。

各部署の対応も明記。とくに透析、健診センター、通所リハビリテーションは暴風警報発令の可能性が大きい場合、利用者さんに事前連絡をして、日程調整を行う必要がある。ただし、台風の進路は読みにくいこともあり、事前連絡の有無は前日に協議する。

想定外を想定内に

今後の課題として斉藤院長は、台風で休診した場合のスムーズなリカバリーを挙げる。たとえば、予定していた人間ドック30件がなくなったら、経営的な打撃を受けると同時に、予約していた利用者さんにも迷惑がかかる。台風が通過したら、すぐに予約を入れ直せたら良いが、別の予約で埋まっていることもある。

そこで前もって「台風予備日」を設定することを検討。現在、人間ドックは第2、第3土曜日の午前のみ実施しているが、もし台風で休診した場合に限り、翌月の第1、第2土曜日の午後にも対応できるよう、各部署が調整する。

また、同マニュアル以外にも、「宮古島の台風をのりきろう」と題したガイドを用意。同院は研修医や派遣看護師など期間限定で勤務する職員が多く、台風の怖さを知らずに離島での生活を始めることもある。そのため、台風に備えて個別に準備するものや注意すべきことを記し、配布している。

斉藤院長は「台風は前もって予測できる災害なので、想定外を想定内にできるよう事前の準備が大切です。近年、本土でも台風被害が増えてきました。個人で取り組んでも限界があるので、病院として台風に特化した対策を見直すことも必要です」と強調。さらに「当院で台風を経験した研修医や派遣看護師が自院に戻り、対策に役立ててもらえたら嬉しいです」と期待を寄せている。

→徳洲新聞号1220掲載