2017年(平成29年)7月31日 月曜日 徳洲新聞 NO.1093 三面
日本脊髄外科学会学術集会
徳洲会5病院14演題
アジアスパイン定例会議も
第32回日本脊髄(せきずい)外科学会学術集会が大阪府で開かれ、徳洲会グループは14演題を発表した。集会の共通メインテーマは「Division and Integration for the Future」(将来への分業と融合)。第8回アジアスパイン定例会議も同時開催のため、英語によるセッションも行われた。主に口頭発表の概要を紹介する。
高齢者の頭蓋頚椎損傷
権藤学司 湘南鎌倉総合病院(神奈川県)副院長兼脳神経外科主任部長
「Characteristics and treatment results of elderly patients with craniovertebral junction injury」(高齢者における頭蓋頚椎(けいつい)損傷の特徴と治療結果)。高齢者の転倒・転落骨折が多く見られ、今後も高齢化が進むことから、自院で実施した頭蓋頚椎損傷104例を、70歳以上と70歳未満に分けて検証。
両群で骨折のタイプが異なることや、治療では高齢者のほうが、骨が弱いため手術時に頚椎をより強く固定することなどを説明。
難しい脊髄外科治療解説
渡辺剛史 湘南鎌倉病院 脳神経外科部長
今回、徳洲会関係者のなかで、唯一シンポジウムで発表。テーマは
「Treatment strategy for craniovertebral junction injury」(頭蓋頚椎後部の治療戦略)。頭蓋頚椎後部の異常は見逃しやすく、かつ術式も多岐に分かれる。106例の外傷のなかで37例に手術を行い、全例で骨の融合に成功したことを報告。的確な骨折のタイプの診断と適切な外科治療の重要性を強調した。
一般演題でも「骨粗鬆症性椎体骨折に対する経皮スクリューを用いた多椎間固定術」と題し発表。骨が脆弱なため難しいとされる骨粗鬆症(こつそしょうしょう)性椎体(ついたい)骨折の手術で、経皮スクリューを用いた多椎間(たついかん)固定術の実績を紹介し、短時間かつ低侵襲で治療しうる有用性を訴えた。
SAHの原因として鑑別
田中雅彦 湘南鎌倉病院 脳神経外科部長
「頭蓋頚椎移行部動静脈瘻(ろう)の5例」。頭蓋頚椎移行部動静脈瘻は頭部と首のつなぎ目の動脈静脈の間に異常な通路ができる血管の病気。くも膜下出血(SAH)や脊髄の静脈性高血圧による急性脊髄障害で発症するが、罹患(りかん)率は低い。
自院の頭蓋頚椎移行部動静脈瘻5例を報告し、「SAHで発症する症例が多く、SAHの原因として鑑別診断に挙げるべき」とした。
頚椎前方再手術の要諦
北原功雄 千葉徳洲会病院 副院長兼脳脊髄神経外科センター長
「頚椎前方除圧手術後、隣接椎間病変に対する頚椎前方除圧再手術のコツ」。5年間で行った頚椎前方除圧手術78例のうち、術後に隣接する椎間に病変を来し、頚椎前方再手術を実施した4例を報告。
再手術時の動画を供覧しながら、食道損傷などの合併症を防ぎ、通常の頚椎前方除圧術として手術ができるポイントを解説した。
術中MEPモニタリング
田中聡 東京西徳洲会病院 脳脊髄腫瘍センター長兼脳神経外科部長
「Intraoperative motorevoked potential (MEP) monitoring during spinal surgery in patients with less than MMT 2/5 preoperative motor palsy」(術前に徒手筋力テスト〈MMT〉5分の2以下の運動麻痺(まひ)が見られた患者さんに対する脊髄手術中の運動誘発電位〈MEP〉モニタリング)。MMT5分の2の患者さん26人を対象に、術中のMEPモニタリングを実施。術前に麻痺のある患者さんでも、術中MEPモニタリングが有効となる可能性を示唆した。
緊張型頭痛と頚椎変性
吉村政樹 八尾徳洲会総合病院(大阪府) 脳神経外科医長
「Cervical degenerative index for the evaluation of tension type headache」(緊張型頭痛患者さんにおける頚椎変性度合いの評価)。自院の症例を対象に、頚部の筋肉の圧痛を確認したり頚椎のアライメント(並び)などをX線で調べたりした。
その結果、全例で頚部のいずれかの筋肉に圧痛点を認めたほか、アライメントの評価を頭痛群と非頭痛群で比較すると、頭痛群では正常頚椎前彎(ぜんわん)が有意に少なかったことが判明。不適切な頚部の姿勢が影響している可能性を指摘し、姿勢を正すようアドバイスを送ることで頚椎の疾患予防につながるとした。
専門医訓練施設に徳洲会2病院承認
会場では、同学会が今年度認めた認定医、指導医、専門医訓練施設が公表され、徳洲会グループでは八尾病院の吉村医長が新規の認定医、専門医訓練施設では新規で千葉病院、更新で湘南鎌倉総合病院(神奈川県)が承認された。任期はいずれも7月1日~2021年6月30日まで。
千葉病院の北原副院長は「全国に実質40超しかない訓練施設に、徳洲会から2施設入っている意義はとても大きい」と強調。「今回、学会で複数の徳洲会病院が発表したように、今後もグループ病院が切磋琢磨(せっさたくま)して良い医療を提供するとともに、医師の教育をしっかり行っていきたい」と意欲を見せていた。