徳洲新聞ダイジェスト
Tokushukai medical group newspaper digest
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2023年(令和5年)09月25日 月曜日 徳洲新聞 NO.1408 4面
男性に備わる生殖器のひとつである前立腺が、加齢などにより肥大することで、排尿障害や蓄尿障害を引き起こすのが前立腺肥大症です。高齢男性には珍しくない疾患です。QOL(生活の質)に大きな影響を及ぼし、進行すると尿閉など合併症を引き起こし、場合によっては手術を行う必要があります。山形徳洲会病院の笹川五十次院長(泌尿器科)が前立腺肥大症について解説します。
笹川五十次・山形徳洲会病院院長
前立腺は膀胱のすぐ下にあり、尿道を取り囲むようにしてあります。『前立腺肥大症診療マニュアル』(日本泌尿器科学会編)によると、前立腺肥大症の定義は「前立腺の良性過形成による下部尿路機能障害を呈する疾患」で、「通常は前立腺腫大と下部尿路閉塞を示唆する下部尿路症状を伴う」とあります。
良性過形成とは、悪性ではない前立腺の肥大(体積の増加)を意味し、下部尿路機能障害には、尿が出にくくなる排尿障害や、頻尿などが生じる蓄尿障害があります。大きな合併症としては尿閉、肉眼的血尿、膀胱結石、尿路感染症、腎後性腎不全があります。
危険因子は加齢のほか、男性ホルモンの一種であるテストステロンを産生する機能的に正常な精巣が思春期に存在すること、遺伝的要因、肥満、高血圧、高血糖、脂質異常症、メタボリック症候群との関連なども指摘されています。
次に診断です。複数の検査を組み合わせて行うのが一般的です。①排尿症状の程度を調べるスコア:国際前立腺症状スコア(IPSS)、過活動膀胱症状スコア(OABSS)、②直腸診、③尿検査、④超音波検査(経腹的)、⑤前立腺特異抗原(PSA)、⑥尿流測定、⑦残尿測定──とさまざまな検査がありますが、原則⑥以外はすべて行います。前立腺がんも似た症状を呈することがあるため、PSA検査を必ず行います。このうち、参考にIPSSを表に掲げます。中等度以上の方は受診をおすすめします。
治療法は、大きく分けると薬物療法と手術療法があります。薬物療法では効果が得られない場合に手術を行います。薬物療法には、α1アドレナリン受容体遮断薬(α1遮断薬)、ホスホジエステラーゼ(PDE)5阻害薬、5α還元酵素阻害薬、抗アンドロゲン薬などがあり、それぞれ異なる作用機序をもちます。患者さんの症状や基礎疾患などに応じて適切な薬剤を選択し投与します。
現在、最も多く使われているのがα1遮断薬です。同薬は、前立腺と膀胱頸部の平滑筋緊張に関係するα1アドレナリン受容体を阻害する薬です。平滑筋の緊張を緩和することにより、尿道の閉塞を減少させ、前立腺肥大症による下部尿路症状の改善を期待します。また、他の薬には、男性ホルモンの働きを抑えて前立腺を小さくする作用のものもあります。
一方、手術療法には内視鏡手術と開放手術があります。内視鏡手術には、経尿道的前立腺切除術(TURP)、光選択的レーザー前立腺蒸散術(PVP)、ホルミウムレーザー前立腺核出術(HoLEP)、経尿道的バイポーラ電極前立腺核出術(TUEB)などがあります。内視鏡手術では困難で、とくに大きな前立腺の場合に開放手術を行います。
前立腺肥大症は死に至る病ではありませんが、QOLを低下させます。排尿障害や蓄尿障害でお困りの方は、ぜひ医療機関を受診してください。