徳洲会グループ TOKUSHUKAI GROUP

病気の治療

medical treatment

脳神経外科の病気:がん性髄膜炎・髄膜癌腫症

症状は神経障害、頭痛、膀胱・直腸障害

がん性髄膜炎は、髄腔内に播種された細胞は髄液循環に乗り、中枢神経系に着床して神経や脳、脊髄で増殖し実質内に進展して種々の脳神経障害や脳症状、脊髄・末梢神経症状を発症させます。Neuro axisに沿って多彩な神経症状を呈するとともに、最終的には体位の問題から延髄近傍の脳槽に細胞が集積、増殖して延髄を傷害して死に至らしめます。したがって、できるだけ早期に診断して、早期治療を行うかがより良好な予後を得るうえで重要となります。

症状は以下のとおりです。

  1. 12脳神経の単一あるいは複数の神経障害
    複視、末梢性顔面神経麻痺、聴力低下・耳鳴り、嚥下障害が多い。
  2. 頭痛(髄膜刺激症状)、四肢の運動・知覚障害、線維性けいれん
  3. 膀胱・直腸障害

造影MRIによる脳・脊髄の髄膜の増強効果、髄液所見(一般、細胞診)で診断します。髄液細胞診は1度で陰性であっても(陽性率50%)、2度(陽性率80%)、3度(100%)と試みることが重要で、そのたびに陽性度が高くなります。

図2はがん性髄膜炎の剖検例ですが、組織の青の部分が腫瘍の浸潤部位であり浸潤とともに組織を破壊していきます。髄腔内化学療法にて腫瘍が消失しても破壊された組織が残るので、早期の髄腔内化学療法の必要性が示されています。

図2

慢性頭痛、QOLの改善が治療のゴール

治療の目的は慢性頭痛からの解放、QOLの改善ですが、早期の発見にて生存期間の延長が期待されます。NCC(National Comprehensive Cancer Network)ガイドラインでは、放射線治療と髄腔内化学療法を推奨しています。しかし同時に放射線化学療法を施行することは、白質脳症を合併するため禁忌です。髄腔内化学療法はオンマヤシステム(側脳室内前角留置チューブと皮下に留置したOmmmaya reservoirを連結したもの)を経皮的に25~27Gの翼状針で穿刺してMTX、AraC、FdUrdを注入する方法です。標準的にはMTX 5mgとCytosine arabinoside (Ara-C) 20mgを混注して週2~3回2週間投与を行い、後に週1回維持療法として投与する方法を行います。この投与量と頻度では骨髄抑制は生じませんが、週3回になると骨髄抑制が出現します。MTXで効果がなく耐性がみられる場合は、図3にも示すように筆者らは6-thioguanineの併用にて耐性が克服されることを明らかにしました。

図3

Cytarabine徐放剤は個人輸入で使用可能

髄腔内投与抗がん剤についてはすべての抗がん剤が可能ではなく、MTX、cytosine arabinoside(Ara-C)、thioTEPA、筆者が米国特許を保持しているFdUrdなどの数種類に限定されています。また日本で筆者がPhase Iを施行したcytosine arabinosideの徐放剤であるDepoCytがあります。この薬剤は1回腰椎穿刺にて髄腔内投与を行うと2週間有効濃度が維持されるため、患者さんの負担が少なくて済みますが、厚生労働省に認可がもらえなかった経緯があります。このDepoCyt(Cytarabine徐放剤)は個人輸入で使用可能です。

近年、肺がんのEGFR変異陽性の非小細胞肺がんの場合は分子標的治療薬のgefinitib、erlotinibの有効性が報告されています。これら以外に自験例で以下のような種々の試みを行っており、いずれも好結果が得られています。

がん性髄膜炎に対する新しい試み(中川 他)

  1. MTX1mg少量を朝夕2回、投与を行う方法
    副作用の軽減とよりよい効果が得られました。
  2. MTXとAra-C併用による脳室・腰部髄腔内灌流化学療法
    Surg Neurol 45:256-64, 1996

    人工髄液を脳室内に留置したオンマヤ装置から持続注入し、腰部くも膜下腔に留置した排液チューブから排出し、定時にMTX、Ara-Cを投与する方法。この方法でかなりのがん細胞が排出され、患者さんは身体が非常に軽くなったと訴え、臥床状態から歩行が可能になることが多く認められました。

  3. 持続MTX髄腔内投与療法
    Infusion pumpを用いて髄腔内にMTXを持続投与する方法、MTXのtime-dependentの作用を利用した方法。
    骨髄抑制の問題がありますが、効果は一般の標準的単発投与の繰り返しよりも効果がある印象が得られました。
  4. MTX耐性髄膜癌腫症に対するMTXと6-thioguanineの併用療法
    90th AACR、1999, Philadelphia
    患者さんはがん性髄膜炎をきたす時期にはすでに薬剤耐性機序が働き、MTX耐性になっていることがあります。その場合は6-thioguanineの併用にて薬剤耐性が克服できることを証明しました。
  5. 5 Fluoro-2’-deoxyuridine (FdUrd)の反復髄腔内投与療法
    『米国特許収得』(United States Patent-Nakagawa H.Patent Number 6,140311,Date of Patent Oct.31,2000)
    Yamada M, Nakagawa H, et al. J Neurooncol 37: 115-121,
    Nakagawa H, et al. J Neurooncol 45:175-183,1999
    Nakagawa.H, et al. Cancer Chemother Pharmac 43:247-256,1998

    悪性神経膠腫の腫瘍腔内投与療法でも記しましたが、FdUrdそのものは増殖の盛んな細胞にのみ作用をする性格があり、髄腔内投与による神経毒性も低いことから、髄腔内投与可能抗がん剤であることを証明し、米国特許を収得しています。がん性髄膜炎には最適の抗がん剤であり、臨床的にも副作用が少なく、強い効果を示します。

  6. FdUrdの持続髄腔内投与療法
    Nakagawa H., et al. Neurosurgery 57:266-280, 2005
  7. がん性髄膜炎に対する酪酸ナトリウムの持続髄腔内投与療法
    95th AACR2004, Orlando; 96th AACR2005,Anaheim, ICACT,2006,Paris; 43rd ASCO2007,Ghicago, ECCO 15/ESMO 34,2009,Berlin;2013AACR Washington DC, 2014AACR, SanDiego
    悪性神経膠腫の治療に効力を発揮するとともにがん性髄膜炎にも良好な結果を示しました。
  8. Ns-101(DepoCyte:Cytarabine徐放剤)による髄膜癌腫症のPhase I
    中川秀光他,癌と化学療法34:1799-1805, 2007
    cytosine arabinosideの徐放剤で1回の腰椎穿刺の投与で2週間効果が持続するもので、中川らが日本で初めてPhase I studyを行ってその効果と安全性を証明しました。厚生労働省の認可がおりず、日本で使用するためには自己輸入する以外に方法はありません
  9. Y-27362(Rock inhibitor)併用による髄膜癌腫症の治療
    Nakagawa H., et al., Mol Cancer Res 3:425-433, 2005
    この薬剤の髄腔内投与にてがん細胞の浸潤が抑制され、抗がん剤の髄腔内投与との併用による効果増強が望まれます。

*その他に早期診断法として髄液ミエリン塩基性蛋白(ref)や髄液β—glucuronidaseの測定が早期診断に役立つことを証明しました(中川秀光, 他:実質内転移性脳腫瘍における髄液β-グルクロニダーゼ値の臨床的意義. 成人病 36:27-32、1996)。
Nakagawa H,et al.: Measurements of CSF biochemical tumor markers in patients with meningeal carcinomatosis and brain tumors. J Neurooncol 12: 111-120, 1992
Nakagawa H,et al.: Myelin basic protein in the cerebrospinal fluid of patients with brain tumors. Neurosurgery 34: 825-833, 1994

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