病気の治療
medical treatment
medical treatment
がん性髄膜炎は、髄腔内に播種された細胞は髄液循環に乗り、中枢神経系に着床して神経や脳、脊髄で増殖し実質内に進展して種々の脳神経障害や脳症状、脊髄・末梢神経症状を発症させます。Neuro axisに沿って多彩な神経症状を呈するとともに、最終的には体位の問題から延髄近傍の脳槽に細胞が集積、増殖して延髄を傷害して死に至らしめます。したがって、できるだけ早期に診断して、早期治療を行うかがより良好な予後を得るうえで重要となります。
症状は以下のとおりです。
造影MRIによる脳・脊髄の髄膜の増強効果、髄液所見(一般、細胞診)で診断します。髄液細胞診は1度で陰性であっても(陽性率50%)、2度(陽性率80%)、3度(100%)と試みることが重要で、そのたびに陽性度が高くなります。
図2はがん性髄膜炎の剖検例ですが、組織の青の部分が腫瘍の浸潤部位であり浸潤とともに組織を破壊していきます。髄腔内化学療法にて腫瘍が消失しても破壊された組織が残るので、早期の髄腔内化学療法の必要性が示されています。
図2
治療の目的は慢性頭痛からの解放、QOLの改善ですが、早期の発見にて生存期間の延長が期待されます。NCC(National Comprehensive Cancer Network)ガイドラインでは、放射線治療と髄腔内化学療法を推奨しています。しかし同時に放射線化学療法を施行することは、白質脳症を合併するため禁忌です。髄腔内化学療法はオンマヤシステム(側脳室内前角留置チューブと皮下に留置したOmmmaya reservoirを連結したもの)を経皮的に25~27Gの翼状針で穿刺してMTX、AraC、FdUrdを注入する方法です。標準的にはMTX 5mgとCytosine arabinoside (Ara-C) 20mgを混注して週2~3回2週間投与を行い、後に週1回維持療法として投与する方法を行います。この投与量と頻度では骨髄抑制は生じませんが、週3回になると骨髄抑制が出現します。MTXで効果がなく耐性がみられる場合は、図3にも示すように筆者らは6-thioguanineの併用にて耐性が克服されることを明らかにしました。
図3
髄腔内投与抗がん剤についてはすべての抗がん剤が可能ではなく、MTX、cytosine arabinoside(Ara-C)、thioTEPA、筆者が米国特許を保持しているFdUrdなどの数種類に限定されています。また日本で筆者がPhase Iを施行したcytosine arabinosideの徐放剤であるDepoCytがあります。この薬剤は1回腰椎穿刺にて髄腔内投与を行うと2週間有効濃度が維持されるため、患者さんの負担が少なくて済みますが、厚生労働省に認可がもらえなかった経緯があります。このDepoCyt(Cytarabine徐放剤)は個人輸入で使用可能です。
近年、肺がんのEGFR変異陽性の非小細胞肺がんの場合は分子標的治療薬のgefinitib、erlotinibの有効性が報告されています。これら以外に自験例で以下のような種々の試みを行っており、いずれも好結果が得られています。
人工髄液を脳室内に留置したオンマヤ装置から持続注入し、腰部くも膜下腔に留置した排液チューブから排出し、定時にMTX、Ara-Cを投与する方法。この方法でかなりのがん細胞が排出され、患者さんは身体が非常に軽くなったと訴え、臥床状態から歩行が可能になることが多く認められました。
悪性神経膠腫の腫瘍腔内投与療法でも記しましたが、FdUrdそのものは増殖の盛んな細胞にのみ作用をする性格があり、髄腔内投与による神経毒性も低いことから、髄腔内投与可能抗がん剤であることを証明し、米国特許を収得しています。がん性髄膜炎には最適の抗がん剤であり、臨床的にも副作用が少なく、強い効果を示します。
*その他に早期診断法として髄液ミエリン塩基性蛋白(ref)や髄液β—glucuronidaseの測定が早期診断に役立つことを証明しました(中川秀光, 他:実質内転移性脳腫瘍における髄液β-グルクロニダーゼ値の臨床的意義. 成人病 36:27-32、1996)。
Nakagawa H,et al.: Measurements of CSF biochemical tumor markers in patients with meningeal carcinomatosis and brain tumors. J Neurooncol 12: 111-120, 1992
Nakagawa H,et al.: Myelin basic protein in the cerebrospinal fluid of patients with brain tumors. Neurosurgery 34: 825-833, 1994