直言
Chokugen
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直言 ~
岡 進(おかすすむ)
笠利病院(鹿児島県) 院長
2025年(令和7年)03月17日 月曜日 徳洲新聞 NO.1483
離島にいると、急速な少子高齢化を身近に感じます。私たちの病院は奄美大島本島の北部、笠利町にあり、人口は5,200人程度です。この10年間で約1,000人減少しました。離島・へき地の少子高齢化は加速し、止まる気配はありません。町内には8つの小学校がありますが、生徒が一番少ない小学校は児童数13人、多い小学校は当院の近隣にある小学校で、86人です。地域全体の小学校の児童数は合計271人です。中学校は2校あり、在校生は合計144人です。10年前と比較すると、確実に減少していることを、まさに肌で感じます。
一方、65歳以上の老齢人口割合は、鹿児島県で34.4%、奄美市で35.2%です。笠利町は奄美市の飛び地で統計は出ませんが、40%を超えていると思います。着実に高齢化が進展しています。
厚生労働省は2025年2月に、24年の「人口動態統計」の速報値を公表しました。全国の年間出生数は72万人と、9年連続で過去最少を更新しました。国立社会保障・人口問題研究所が23年に公表した将来推計人口では、年間出生数が72万人台になるのは39年としていましたが、すでに24年に72万人に達しており、想定を上回るスピードで少子化が進んだことになります。
婚姻数は2.2%増、49万組で、2年ぶりに少し増加に転じたとのことです。22年6月、厚労省が発表した「人口動態統計」では、1人の女性が生涯に産む子どもの推計人数を示す合計特殊出産率が1.26倍と、17年ぶりの低水準になったことが判明しました。政府は異次元の少子化対策に向け、児童手当の拡充など、年3兆5,000億円に上る見込みの「こども未来戦略方針」を公表しました。
こうした統計から、社会の持続可能性に深刻な影響を及ぼす人口減少が進んでいることが読み解けます。
少子高齢化を考える時、同時に財源を考える必要があります。年間の医療費は約47兆円です。この1割の約4兆円を生まれる子どものために使ったら、1人当たり約500万円になります。これを出生祝い金として渡せたら、異次元のお祝い金となるでしょう。とてもインパクトが大きいはずです。この試みにより、夫婦が3人の子どもをもてば、必然的に人口増となります。また、結婚をためらっているカップルの後押しにもなるでしょう。このような祝い金を若い世代に支給できれば、所得の再分配にもつながります。
しかし、こうした試みの財源となる医療費の1割削減はどうしたらいいのか、という問題が出てきます。
まず、高額な医薬品を使用しないことや、胃瘻や気管チューブなどの器具は、延命には使用しないことを考えてみるのは、いかがでしょうか。たとえば、認知症の患者さんに認知症の治療は行いますが、繰り返す誤嚥性肺炎などは認知症を良くするわけではないため、積極的な治療を行わないということも考えてみるのは、どうでしょうか。
もし、このようなことを行ったとしたら、医療費の1割削減は可能だと思います。私の従妹はイギリス人と結婚し、鹿児島に住んでいます。その夫の母親が子ども夫婦に会うため、鹿児島を訪れた時、私の親戚が集まり歓迎の宴を開きました。現役の時は小学校の校長をしていた方でした。ところが、その後、その方が認知症になり、英国にお見舞いに行きました。入院している施設の医師からは「認知症に関する治療は行いますが、これに関係しない病気の治療は行いません」と、告げられたそうです。これに対し「意味のない延命は考えていないので、了解しました」と話したとのことです。欧米の医師は、日本の療養型の病院で寝たきりの患者さんを多く診ているのを見て、ビックリするそうです。意味のない無駄なことをしていると思うようです。もし、日本の医療で、そうしたことを止めたなら、医療費の1割削減は可能になるのではないでしょうか。
子どもの虐待は貧困がベースになっていると言われます。貧困が減ると虐待は劇的に減少するでしょう。医療費を減らした分を子どもに使う。予算処置は必要ありません。個人的には、ぜひとも実現できたらと願っています。
生まれてくる子どもは国の宝です。子どもたちや子育て世帯を支えるために、皆で頑張りましょう。